Juutsuu(ジューツー)が変える工務店と施主の距離感——会話・書類・IoTを一つの窓に
2020年7月14日、ある小さな工務店向けクラウドサービスが静かにローンチしました。その名は「Juutsuu(ジューツー)」。開発元は埼玉県のシステム会社で、これまで住宅業界向けの在庫管理パッケージを手がけてきた経験を持つ。この日、ベータ版の提供が始まり、全国の20社の工務店がテストに参加した。
Juutsuuの大きな特徴は「会話・書類・IoTデータ」を一つのチャネルに統合した点です。施主と工務店のやり取りにはLINEやメールが使われることが多いが、Juutsuuはあえて独立したアプリにせず、WebブラウザとスマートフォンのPWA(プログレッシブウェブアプリ)で動作する。インストール不要で、高齢の施主にも敷居が低い。

なぜ「Juutsuu」が生まれたのか
住宅業界のデジタル化を取材していると、よく聞くのが「施主との情報共有が属人的になりすぎている」という悩みだ。現場監督が個人のスマホで撮った写真をLINEで送る——それが当たり前になっている。ところが現場監督が変わると引き継ぎがうまくいかず、施主は「以前あの写真はどこにいったのか」と不安になる。Juutsuuはすべての会話とファイルを案件ごとに時系列で保存し、工務店側の担当者が変わっても施主は同じ画面で履歴をたどれる。
さらに設備メーカーからの保証書や取扱説明書をデジタルで一括管理できる。これまでは紙のファイルを引き渡すことが多く、施主が後で紛失するケースが少なくなかった。Juutsuuでは引き渡し時に専用の「デジタルお引渡し帳」を自動生成し、施主のスマホに通知が届く。通知をタップすれば、エアコンの型番やメーカーサポート窓口がすぐに表示される。
IoT機器との連携がもたらす運用の変化
注目すべきは、JuutsuuがホームIoTのデータを直接取り込める点だ。例えば、分電盤に取り付けたHEMSセンサーや、玄関のスマートロックの開閉履歴を、Juutsuuのダッシュボードから確認できる。工務店側は「この家の電気使用量が平日昼間に多いのは在宅勤務のためだな」と把握し、その後のメンテナンス提案に活かせる。施主は「今月のエアコンの使用時間が長いのでフィルター掃除を依頼しよう」と、アプリ内から直接リクエストを送れる。
このような仕組みは、2019年のゴールデンウィーク前に筆者が紹介したスマートホーム設定のベストプラクティスと共通する思想を持っている。ただしJuutsuuは設定を専門業者に頼まなくても、施主が自分で簡単な操作でセンサーを追加できる点が異なる。技術に詳しくない方でも、QRコードを読み込むだけでデバイスを紐付けられる。
小規模工務店が導入する際のポイント
Juutsuuの料金は月額固定で、施主側は無料。工務店は案件数に応じたプランを選ぶ。最低プランは月額5,000円(税別)で、同時進行案件3件まで対応できる。この程度の投資であれば、書類の郵送代や電話代を考えれば十分にペイする。
導入時に気をつけたいのは、社内での利用ルールを事前に決めておくことだ。たとえ便利なツールでも、現場監督が従来のLINEに固執してしまえばデータが分散する。ある工務店では、Juutsuuへの投稿を必須とし、LINEは緊急連絡専用と取り決めた。すると施主からの「写真がいつも同じ場所で止まっている」というクレームが激減したという。
また、施主への説明も重要だ。「アプリを入れなくても、お使いのスマホのブラウザでアクセスできますよ」と伝えるだけで、導入後の問い合わせが減る。Juutsuu独自の機能として、施主のアクセスログを工務店側が確認できる。施主がいつ最終ログインしたかがわかるため、連絡のタイミングを逃さない。

ビジネスフェア2019で見た萌芽
実はJuutsuuの原型となるコンセプトは、前年のビジネスフェア2019で展示された小規模工務店向けデジタル化の3つのトレンドの一つとして紹介されていた。当時はまだプロトタイプ段階だったが、施主と工務店のコミュニケーションを「会話」と「書類」と「機器データ」の三層で捉えるというアプローチが高く評価された。あれから1年、正式版として発表されたJuutsuuはその三層を現実のものにしている。
実際の操作フローで見るUX設計
JuutsuuのUIで特筆すべきは、高齢者にも使いやすい「大きめのテキストとコントラスト」を標準採用している点だ。背景は白、文字は黒、ボタンは青色で統一。タップターゲットは最低でも48px確保している。これは国土交通省の「住宅関連情報の提供に関するガイドライン」のアクセシビリティ要件を意識した設計という。
施主が初めて使うときは、工務店から送られてくる招待メールのリンクをクリックするだけ。パスワード設定後すぐに「今日の作業予定」がタイムラインで表示される。施主が何か質問したいときは、該当する作業写真の下にある「この写真について質問する」ボタンを押すと、自動的に工務店の担当者宛のメッセージが作成される。
また、引き渡し後のアフターサービスでは、定期点検のリマインダーが自動通知される。点検日が近づくと施主のスマホにポップアップが出て、そのまま予約できる。工務店側は空き日程をJuutsuu上で管理しておけば、電話でのやり取りが不要になる。実際に導入した工務店のオーナーは「施主からの問い合わせが、従来の月30件から5件に減った。その分、現場の品質管理に集中できるようになった」と語る。
こうした運用の変化は、工務店の規模が小さいほど効果が大きい。なぜなら、専任の営業や事務員を置けないため、社長自身が施主対応から現場までをこなすケースが多いからだ。Juutsuuによって情報が非同期で共有できるようになると、電話の取り次ぎやメールの検索に費やす時間が大幅に削減される。
2020年夏、住宅テックの分岐点
7月14日のJuutsuuローンチは、住宅業界における「デジタルお引渡し」という概念を一般化させるきっかけになったと言える。それまで大手ハウスメーカーは専用アプリを提供していたが、中小工務店には予算面・運用面でハードルが高かった。Juutsuuは安価でかつシンプルな仕組みで、そのギャップを埋めた。
ただし、万能なツールではない。例えば、複数の工務店が共同で使うには同一企業内での運用に限定されており、リフォーム事業者との連携には別途設定が必要だ。今後のアップデートでマルチカンパニー対応が予定されているという。
その一方で、実際に導入した工務店からは「施主が自分から写真を見ながら『ここ、もう少しこうしてほしい』と具体的に言ってくるようになった」という声も出ている。紙の図面では伝わりにくかったニュアンスが、Juutsuuのチャットと写真の組み合わせでスムーズに共有できるようになった。ツールが変わると、施主の関与の仕方そのものが変わる——そんな変化が、この夏からじわじわと広がり始めている。