2020年7月31日、新研ハウジングが公開した「住まいの見える化」アプリとは
2020年7月31日、愛知県豊橋市に本社を置く新研ハウジングが、住宅オーナーと工務店をリアルタイムでつなぐスマートフォンアプリ「Mieruka(ミエルカ)」の正式版をリリースした。発表は同日午前10時、同社のウェブサイトとYouTubeライブで行われ、約300人の工務店経営者や住宅オーナーが視聴したという。Mierukaは、新築時の設計情報から入居後の設備管理、定期点検の履歴、さらにはリフォーム提案までを一つのアプリで完結させることを目的としている。
背景:小規模工務店に求められたデジタル窓口
新研ハウジングは従業員25名の地域密着型工務店で、年間施工棟数は約40棟(2020年3月期)。同社は2019年から自社開発のプロジェクトを開始し、既存の住宅管理システムではなく、ゼロからアプリを構築した理由はシンプルだ。「工務店の規模が小さければ小さいほど、顧客との接点が社長や現場監督の個人に依存してしまう」(開発責任者・鈴木氏)。コロナ禍による非接触ニーズの高まりもあり、リリースは当初の予定より3か月前倒しされた。

Mierukaの5つのコア機能
Mierukaの機能は、住宅のライフサイクル全体をカバーする。以下がリリース時点の主要な機能だ。
- 設備カルテ — 新築時に使われた給湯機、エアコン、照明器具などの型番・保証期間・取扱説明書を一覧表示。写真と購入日も記録できる。
- 定期点検リマインダー — 建築後1年・2年・5年・10年の法定点検やメーカー推奨のフィルター清掃などを自動通知。オーナーはアプリから点検予約を直接依頼できる。
- 工事進捗ボード — リフォームや修繕工事の際、施工前・施工中・完了の写真を現場監督がアップロード。オーナーは外出先でも進捗を確認でき、チャットで質問できる。
- 書類ボックス — 重要事項説明書、図面、保証書などをクラウド保存。紙の紛失リスクを減らし、引っ越しの際もすぐに取り出せる。
- お知らせ&メッセージ — 工務店からの一斉配信(冬季の水道凍結注意など)と、オーナーからの個別問い合わせに対応。既読管理機能で連絡漏れを防ぐ。
これらの機能はすべて、AWSの東京リージョン上で稼働しており、データのバックアップは毎日自動で行われる。オーナーの個人情報はエンドツーエンド暗号化され、工務店側も権限設定で閲覧範囲を制限できる。
工務店にとっての導入メリット
中小規模の工務店にとって、Mierukaの最大の利点は「顧客接点のデジタル化」にある。これまで電話やFAX、対面で行っていたやり取りがアプリに集約されることで、以下の効果が期待できる。
- 問い合わせ対応の時間短縮(平均で1件あたり15分削減と試算)
- 点検漏れの防止によるクレーム減少
- リフォーム提案時の過去工事情報の即時参照による精度向上
- 新人スタッフでも顧客履歴をすぐに把握できる教育効果
新研ハウジング自身もMierukaを試験運用したところ、2020年4月〜6月の間に点検予約が前年同期比で180%増加した。これはアプリからの予約が増えたことに加え、リマインダーを見たオーナーが自主的に点検を依頼するケースが増えたためだという。
住宅オーナーから見た使い勝手
実際にMierukaを使い始めた愛知県内の30代オーナーに話を聞くと、「引っ越しのときにもらった書類の束がどこにあるか分からなくなることがなくなった」と評価する。設備の取扱説明書もアプリ内で検索できるため、エアコンのリモコンをなくしても型番からマニュアルをダウンロードできる。また、工事進捗ボードで職人さんの作業写真が毎日更新されるので、共働きの夫婦でも家の状況を把握しやすいという。
プライバシー面では、アプリ内のカメラ機能は位置情報と連動して自宅のGPS範囲内でのみ撮影可能にする設定がデフォルトでオンになっている。オーナーが許可すれば外出先からも閲覧できるが、初期設定は「自宅内のみ」が推奨されている。
クラウドツール導入の実例として
新研ハウジングのMierukaは、小規模工務店が自社でクラウドアプリを開発・運用した珍しい事例だ。多くは既存のSaaSをカスタマイズするが、同社は「住宅業界の独特なワークフローに合わせるならゼロから作った方が早い」と判断。開発費は約800万円、月額運用コストはサーバー代として約5万円という。同様の規模の工務店で導入を検討する場合、Mierukaの仕組みを参考に、まずは設備カルテとリマインダーの機能だけを既存のグループウェアに組み込む方法もある。この点については、2018年12月に発表されたKnotが住宅業界の情報連携に与えた影響をまとめた記事でも触れられている。
2018年12月12日「Knot」発表から5年:住宅業界にもたらした本当の変化では、中小事業者がAPI連携に取り組む際の課題と成果が詳しく報告されている。Mierukaも将来的には外部のセンサーデータを取り込む方向で検討中だ。
今後のロードマップと普及の壁
新研ハウジングは2020年末までに、MierukaにHEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)連携機能を追加すると発表している。具体的には、分電盤に取り付けた電流センサーの値をアプリで可視化し、エアコンや給湯器の電気使用量を設備ごとに表示する予定だ。さらに2021年春には、近隣の空調設備業者や水道業者と連携するマーケットプレイス機能を試験導入する計画である。
一方で課題もある。高齢の住宅オーナーにとってアプリ操作のハードルは依然として高く、新研ハウジングは月1回のスマホ教室を本社で開催し、直接サポートしている。また、工務店側でもスタッフ全員がアプリを使いこなせるとは限らず、導入後の定着率をどう高めるかが今後の普及の鍵となる。初年度の導入目標は200棟と控えめだが、この数字は新研ハウジング自身の施工物件に限らず、近隣の工務店へのOEM提供も含んでいる。2020年7月31日の発表会では、すでに3社の工務店が導入を決めたことが報告された。