50年続く工務店がクラウドツールで変えた現場と顧客満足度 – 導入1年の実例
工務店が選んだクラウドツールと、その後の変化
2019年8月6日、埼玉県川越市で50年続く工務店「木の家舎」の代表・田中誠氏に、住宅業界のデジタル化について話を聞く機会があった。同社は2018年からアフターサービスと施主とのコミュニケーションにクラウド型アプリを導入。導入から1年が経ち、現場と経営にどのような変化が起きたのか。具体的な数字や顧客の声を交えて語ってもらった。

きっかけは「紙の書類が戻ってこない」問題
田中氏はまず、導入の理由をこう説明した。「うちは完成後も定期点検やリフォームの提案を紙のパンフレットで行っていました。しかし、お客様から返事が来ない、書類をなくしたと言われるケースが増えていました。特に若い世代の施主は、スマートフォンでいつでも確認できる仕組みを希望する方が多かった。」
そこで同社は、2018年12月にリリースされた住宅向けコミュニケーションプラットフォーム「Knot」の試験導入を決めた。この決断の背景には、同ブログでも以前取り上げた、スマートスピーカーによるIoT連携への期待もあったという。実際、同社は冬期休業中にスマートスピーカーを社内で試用し、そのユーザビリティの高さに確信を持ったと語る。
導入後の具体的な変化:作業時間と顧客満足度
インタビューでは、具体的な数字も明らかになった。導入から半年後の調査で、アフターサービスの問い合わせ対応にかかる時間が平均で約30%削減。施主がスマートフォンから写真付きで不具合を報告できるようになったため、現場への出動前に状況を把握でき、部材の準備やスケジュール調整がスムーズになったという。
- 問い合わせ対応時間:従来は電話とFAXで平均45分→アプリ導入後はチャットと写真共有で平均30分に短縮
- 顧客満足度:導入前に比べて「また依頼したい」と答えた施主の割合が72%から89%に向上
- 紙資源:半年で約2,000枚の紙資料削減、コピー代と郵送費で年間約15万円のコストダウン
田中氏は特に「見える化」の効果を強調した。「工事の進捗やアフター予定を施主自身がアプリで確認できるようになり、『いつ来るのか分からない』という不安がなくなったと喜ばれています。これは電話でやり取りしていた時には実現できなかったことです。」

IoT連携でさらに便利に:エアコンと給湯器の遠隔管理
同社は2019年のゴールデンウィーク前に、施主向けにスマートホーム設定の提案を強化した。特に注力したのが、エアコンと給湯器の遠隔操作だ。田中氏は「夏場の帰宅前にエアコンをつけたいという要望は多く、IoT対応機器を標準仕様にしたところ、新規契約の約4割がオプションで追加しました」と語る。この取り組みについては、当ブログのゴールデンウィーク前の準備記事でも具体的な設定手順を紹介している。
給湯器のリモート管理は、リフォームのきっかけにもなっている。例えば「スマホでお湯の使用量が見える」という機能が、節約意識の高い施主に受け、省エネ給湯器への交換を促すケースが増えたという。田中氏は「デジタルツールは単なる便利ツールではなく、新しいニーズを掘り起こす窓口になっています」と述べた。
工務店側の運用負担と社内教育
もちろん課題もあった。社員のうち50代以上の大工には、スマホ操作に慣れていない者もいた。そこで同社は週1回の15分勉強会を実施。最初は「アプリなんて必要ない」と言っていたベテランも、現場で写真をすぐ共有できるメリットを実感し、今では自ら提案するようになったという。
「デジタル化は『誰のためのものか』を考えなければ失敗します。弊社の場合、お客様の利便性はもちろん、現場の職人さんの手間を減らすことにも重点を置きました。結果的に、大工さんが事務所に戻って報告書を書く時間が減り、現場での作業時間が増えました。」(田中氏)
今後の展望:小規模工務店のネットワーク化
最後に、田中氏は業界全体の未来について語った。「小規模工務店は単独では大きなシステム投資が難しい。ですが、今回のように共通のプラットフォームを使えば、複数の工務店でデータを共有し、連携してメンテナンスに対応できる可能性があります。例えば、遠方に住む施主の急なトラブルに、近隣の提携工務店が対応するような仕組みです。」
こうした構想は、まさに当ブログで以前紹介した本社移転による三者をつなぐデジタル拠点の実践とも通じるものがある。地方の工務店が協業するハブとして、クラウド型ツールが果たす役割は今後さらに大きくなるだろう。
田中氏はすでに隣県の工務店2社と、アフターサービスの相互受付を試験的に始める準備を進めている。「お互いの施主データをKnot上で共有できれば、遠方のトラブルにも迅速に対応できる。小規模工務店が連携する第一歩にしたい」。この試みの詳細は、次回のレポートで紹介する予定だ。
まとめに代えて:聞き取りで得た3つのポイント
- 紙のコミュニケーションからデジタルへ移行することで、顧客満足度が顕著に向上した。
- 導入当初は社内教育が必要だが、現場の負担軽減を意識することで抵抗感を減らせる。
- 中小工務店同士の連携には、共通プラットフォームが鍵となる可能性がある。
本インタビューは2019年8月6日に実施。取材協力:木の家舎 田中誠氏。