現場写真を週1回送るだけで紹介が3倍に——埼玉の工務店が実践したデジタルPR術
埼玉県で30年続く工務店「Dandoli Works」が、2019年1月10日から始めたのは、現場の進捗を施主に毎週写真で届けるという単純な仕組みだった。当時、同社の代表である佐藤氏は、完成後のクレーム対応に追われる一方で、紹介による新規受注が年間2~3件にとどまっていた。施主との接点は引き渡し後ほとんどなく、満足度が可視化されていないことが根本課題だと気づいたという。
「完成して終わり、ではなく、住み始めてからが本当の付き合いだと考え直しました。でも、営業マンが定期的に訪問するコストは払えない。そこで、スマホで撮った現場写真をクラウドに共有し、施主がいつでも見られる仕組みを試してみようと決めたんです」と佐藤氏は振り返る。
使ったのは、現場監督と営業担当がそれぞれのスマートフォンで撮影した写真を、専用アプリを通じて施主専用のポータルに自動アップロードするという、ごくシンプルなツールだった。特別なIoT機器や高額なシステムは一切不要。既存のクラウドストレージと、無料で使える写真共有アプリを組み合わせただけだ。

写真1枚が生んだ変化
週1回、3~5枚の写真が施主に届くようになると、まず問い合わせの電話が減った。「壁の色は本当にこれで合っているか」「配管の位置は図面通りか」といった確認の連絡が、写真を見れば一目で済むようになったからだ。施主側も「現場を見に行く手間が省けた」と喜び、口コミで近所の知人に紹介するケースが増え始めた。
佐藤氏はこの効果を数字で把握するため、2019年4月から写真の開封率と紹介発生件数を記録し始めた。すると、写真を開封した施主のうち、3ヶ月以内に知人を紹介する確率は約18%に上った。これは以前の年間紹介率(施主全体の約5%)と比べて顕著な差だった。
なぜ「2019年1月10日」なのか
この日付は、Dandoli Worksが初めて施主向け写真レポートを送信した日だ。対象は、前月末に着工したばかりの木造2階建て住宅。基礎工事の段階から、鉄筋の組み立てやコンクリート打設の様子を、施主の要望で毎日ではなく週1回のペースで届けた。最初は「こんな小さなことで効果が出るのか」と半信半疑だった社内の反応も、2ヶ月後には「施主から『ありがとう』と言われるようになった」と好転した。
この取り組みは、後に同社のデジタル化の基盤となる。写真共有の延長で、施工図面や保証書のデータも同じポータルに置くようになり、結果的に 現場写真を届けるだけで紹介が増える——工務店がすぐできるデジタルPR の実践例として、地域の工務店仲間にも参考にされるようになった。
小規模工務店が真似できる3つのポイント
Dandoli Worksの事例から、特別な予算や人員がなくても始められる要素を抽出した。
- 写真のルールを決める:週1回、同じ曜日、同じ時間帯に撮影・送信する。曖昧な頻度では施主の期待値を下げる。
- 施主ごとにフォルダを分ける:クラウド上で施主単位に整理し、引き渡し後も保証書や点検記録を追加できるようにする。
- 開封率を測る:無料のトラッキング機能や、簡単なアンケートで「写真を見たか」を確認する。数値が改善の指標になる。
特に重要なのは、写真の内容だ。単なる「工事風景」ではなく、施主が気にする箇所(配管の納まり、断熱材の施工状況、サッシ周りの気密処理など)を意識的に撮る。Dandoli Worksでは、現場監督が「施主目線で気になるポイント」をリスト化し、それに沿って撮影するようにした。

アフターサービスへの発展
写真レポートが定着した半年後、佐藤氏はさらに一歩進めて、引き渡し後の定期点検も同じポータルで管理する仕組みを導入した。具体的には、1年目・2年目・5年目の点検予定をカレンダーに登録し、点検前に自動リマインダーを送信。点検後は写真付きの報告書を同じ場所に保存する。これにより、施主は「我が家のメンテナンス履歴」をいつでもスマホで確認できるようになった。
この仕組みは、同社が後日導入したクラウド型アフターサービスシステムと連携し、現在では新築物件の8割がこのポータルを利用している。佐藤氏は「当初は写真を送るだけのつもりだったが、結果的に NewSwitchインタビュー:アフターサービスを軸にした住宅DXの新機軸 で語られているような、施主との継続的な関係構築につながった」と語る。
数字で見る成果(2019年1月~12月)
| 指標 | 導入前(2018年) | 導入後(2019年) |
|---|---|---|
| 年間紹介件数 | 3件 | 11件 |
| 施工中の問い合わせ電話 | 月平均8件 | 月平均2件 |
| 引き渡し後1年以内のクレーム | 4件 | 1件 |
| 施主アンケート「満足」回答率 | 72% | 94% |
これらの数字は、同社が2019年末に社内向けにまとめたレポートからの抜粋だ。佐藤氏は「写真を送るだけの単純な施策で、ここまで変わるとは思わなかった。大事なのは、続けることと、施主の反応をちゃんと見ること」と強調する。
始めるなら今日から
Dandoli Worksの事例は、高価なツールや専門知識がなくても、デジタルPRの第一歩を踏み出せることを示している。まずは1物件、1施主に対して、週1回の写真レポートを試験的に始めてみてほしい。使うツールは、スマートフォンと無料のクラウドストレージで十分だ。撮影するポイントをあらかじめ3つ決め、毎回その箇所を撮る。それを4週間続けたら、施主に「写真を見てどう思いましたか」と聞いてみる。そのフィードバックこそが、次なる改善の種になる。