名古屋の工務店が始めた「週1回の写真共有」が顧客満足度を92%に引き上げた理由
2020年4月10日、名古屋市中川建設は、施主に現場の写真を送るというシンプルな方法を試した。ただそれだけのことだったが、緊急事態宣言直後で施主が現場に来られない状況が続いていた。現場監督の田中さんは「見えない工事ほど不安なものはない」と感じ、週1回、スマホで撮影した写真をクラウドフォルダにアップし、施主に共有リンクを送ることにした。この小さな取り組みが、その後の顧客満足度と紹介率に大きな変化をもたらした。
なぜ2020年4月10日なのか
この日を選んだのは単純な理由だ。それまで中川建設は施主への報告を電話と書面に頼っていた。進捗は「基礎工事が終わりました」と口頭で伝える程度。施主から「写真が見たい」と言われることもあったが、そのたびに現場監督がガラケーで撮った画像をメールに添付していた。非効率で画像も小さく見づらかった。そんな中、2020年4月、コロナ禍で対面打ち合わせが制限され、施主の不安が一気に高まった。中川社長は「このままでは信頼を失う」と判断し、デジタルツールの導入を決意。無料のクラウドストレージと、写真に日付とコメントを付ける簡単なルールを決め、4月10日から運用を開始した。特別なアプリや高額なシステムは必要なかった。現場監督のスマホと施主のスマホだけが揃っていれば十分だった。
具体的な運用方法
中川建設が実践したのは、以下の3ステップだ。どれも特別なスキルはいらない。
- 毎週月曜日の午前中に現場で5枚の写真を撮る:同じアングルから撮影することで、施主が変化を比較しやすくなる。基礎、外壁、内部、屋根、全体の5点を固定アングルで撮影。
- 写真にワンセンテンスの説明を添える:「今日から断熱材の施工を始めました」「来週は屋根の防水工事に入ります」など、専門用語を避けた平易なコメント。
- 共有フォルダにアップロードし、施主にLINEで通知:リンクを送るだけで、施主はいつでもどこでも最新の現場を確認できる。ダウンロードも自由。
この方法は、特別なITスキルを必要としない。現場監督の田中さんは「最初は面倒だと思ったが、2回目からはルーティンになった」と振り返る。施主からは「毎週楽しみにしています」という声が相次ぎ、問い合わせの電話が激減した。

デジタルPRがもたらした3つの変化
この取り組みを始めてから3か月後、中川建設にははっきりとした変化が現れた。
- 施主満足度の向上:アンケートで「工事の進捗がよくわかった」と回答した割合が従来の40%から92%に上昇。
- 紹介件数の増加:写真共有をきっかけに施主がSNSで工事の様子をシェアするケースが増え、半年後の紹介件数は前年比2.5倍に。
- アフターサービスでの活用:完成後も写真が残っているため、設備の位置や配管ルートを確認する際に役立つ。施主自身が写真を見ながら「ここにエアコンを取り付けたい」と相談できるようになった。
この成功事例は、他の工務店にも応用できる。特に、大規模なシステム導入ではなく、既存のスマホと無料のクラウドサービスから始められる点が重要だ。すでに埼玉のある工務店も同様の手法で紹介率を3倍に伸ばしている——現場写真を週1回送るだけで紹介が3倍に——埼玉の工務店が実践したデジタルPR術でも詳しく紹介されている通りだ。

小規模工務店でもすぐに始められる理由
「デジタルPR」と聞くと構えてしまうかもしれない。しかし中川建設の事例が示すように、最低限の環境はすでに整っている。現場監督のスマホ、施主のスマホ、そして無料のクラウドストレージ(Google ドライブやDropboxなど)があればスタートできる。写真を撮る手間は1回あたり5分もかからない。
注意点は、撮影ルールをあらかじめ決めておくことだ。毎回同じ場所から撮る、日付を入れる、コメントは短く——この3つを守るだけで、施主にとって見やすいレポートになる。また、施主によってはスマホ操作に不慣れな場合もある。その際は、最初の1回だけ電話でフォルダの開き方を説明すれば、以降は自動で習慣化する。
中川建設はその後、写真に加えて短い動画も撮影するようになった。施主が「屋根の上からの景色が見たい」とリクエストしたのがきっかけだ。動画は容量が大きくなるため、クラウドではなくLINEのアルバム機能を使っている。こうした柔軟な対応も、デジタルPRを継続するコツと言える。
2020年4月10日が示したもの
あの日、中川建設が始めたのは写真共有そのものではなく、施主との信頼を「見える化」で築く方法だった。施主は工事のプロセスを理解し、完成後もその記録を資産として活用できる。工務店側も説明の手間が減り、問い合わせ対応の時間を削減できる。双方にメリットがあるこの仕組みは、コロナ禍をきっかけに広がり、今では当たり前のサービスとして定着しつつある。
もしあなたが工務店の経営者なら、まずは来週の月曜日、現場で1枚だけ写真を撮ってみてほしい。その1枚が、施主との関係を変える最初の一歩になる。